会長就任に当たって

 

 

 

 

 

 

清水 美憲

筑波大学人間系 教授

 

新算数教育研究会 会長

 

 

 本誌「新しい算数研究」は、1971年の創刊から半世紀を経て、今年1月に第600号が刊行されました。この間、新算数教育研究会は、全国規模の研究団体として、日本の算数教育の理念を先導的に追求し、授業提案や教材開発を中心に、実践研究を牽引してきました。

 

 令和3年2月の役員会でご推薦をいただき,この歴史と伝統のある研究会の会長を務めることになりました。初代会長中島健三先生以来、杉岡司馬先生、菊地兵一先生、片桐重男先生、杉山吉茂先生、伊藤説朗先生、そして前会長清水静海先生のあとを引き継ぐ形で,八代目の会長を拝命しました。諸先輩のこれまでのご尽力に敬意を表しつつ、その遺産を確かに引き継ぎ、微力ながら、算数教育の一層の充実と、研究会の発展のため、尽力したいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 さて、平成から令和への年号の変化とともに時代が転換しつつある現在、学校教育を取り巻く状況は、劇的に変化しています。

 

 いうまでもなく、コロナ禍は、我々の生活はもちろん、学校教育のあり方を根底から揺さ振り、児童が教室という場所で仲間とともに学ぶことの重要性を我々に再認識させました。その一方、教育課程の考え方は、内容ベースから資質・能力ベースへと大転換し、現在はまさにその実装のフェイズに入り、学習指導要領の全面実施が進行しています。

 

 この間、文部科学省は、GIGAスクール構想の具体化を推進して予算措置を行い,デジタル教科書導入の方針の決定、35人学級の導入、小学校高学年での教科担任性の導入等、矢継ぎ早に新しい政策を打ち出しています。

 

 「デジタル元年」と言われる令和3年度から,従来よりも強力に展開されつつあるICTの活用は、算数の授業にどんな変化もたらすでしょうか。また、資質・能力論に立って、教科固有の「数学的な見方・考え方」の働きと数学的活動を中核に据えた新学習指導要領の趣旨は、教室でそれだけ実現されているでしょうか。

 

 新算数教育研究会の「新」の文字は、その時々の教育理念や教育政策に敏感で、常に最新の動向を視野に入れることを示しています。しかし、それだけではなく、教材の本質に基づくよりよい実践のあり方を、常に教科の前提に立ち返って見直し、新しい教材解釈とその価値を具体的な実践の形で提案することを目指す、という意味もあると思います。

 

 会の活動の2つの柱である年末の湯河原セミナーと全国大会は、残念ながら過去2回中止となりました。今後、ウィズコロナ・ポストコロナを視野に、オンラインセミナーも含めた活動のリニューアルも検討したいと思います。また、若手教員とベテランがコラボできるワクワク感のある研究会となるよう、各地域の先生方のお力をお借りしたいと思います。

 

 一方、商業誌等のメディア環境の変化と書籍離れ、教員の職場環境を取り巻く状況の変化等もあり、支部組織と雑誌購読者による緩やかな会員構成も要検討かもしれません。

 

 中教審による「令和の日本型学校教育」の構築の旗印の下で進行する国の政策動向を注視しつつ、世代交代を図りながら若い世代を巻き込んでこの研究会を守りながら活性化して、次の会長にバトンをお渡しできるように務めたいと思います。